どうも、共働き整形外科医のアラサーキンです。
みなさんいかが、お過ごしでしょうか。
私がどういう者かについては、
に書いていますのでよければご覧ください。
最近読んだ英語論文で面白いものがあったので紹介します。
整形外科医の給料は? 米国編
「アメリカの整形外科医はものすごく稼いでいる」— そんなイメージを持っていませんか?
確かに額面上の金額は大きいかもしれませんが、近年の急激なインフレや医療費抑制の波を受け、
実は米国の整形外科医の「実質的な報酬」は長年にわたり減少傾向にあります。
今回は、2025年にThe Journal of Arthroplasty誌に掲載された2つの最新論文から、米国整形外科医(特に人工関節外科医)の報酬事情のリアルなデータをご紹介します。
日本の医療制度とは異なりますが、今後の日本の医療経済や医師の働き方を考える上でも非常に示唆に富む内容です。
整形外科医の報酬は他職種に比べて「一人負け」状態?
まず紹介するのは、2000年から2020年までの20年間における、整形外科医と他の専門職の報酬推移を比較した論文です。
参考論文①: Trends in Orthopaedic Surgeon Compensation: A Comparative Analysis Over Twenty Years (Pereira et al., 2025)
米国労働統計局(BLS)などのデータを用いて、インフレ調整後の実質的な報酬の増減を調査したところ、驚くべき事実が明らかになりました。
主な調査結果
- インフレ調整後の実質報酬は-38%: 2000年から2020年の20年間で、インフレを考慮した整形外科医の絶対的な所得推移はマイナス38%でした 。
- 他職種は大幅プラス: 同じ期間で、医療以外の専門職である経済学者(+31%)、弁護士(+26%)、エンジニア(+24%)は、インフレ調整後でも大幅なプラス成長を記録しています 。
- 医療従事者の中でも最大の減少: 分析対象となった全職種(他の医療従事者を含む)の中で、整形外科医の給与水準が最も大きく下落していました 。
この論文の著者らは、調整後の整形外科医の報酬が2000年から2020年の間に著しく減少しており、他の高度な専門職と比較して最も大きな下落を示したと結論づけています 。
この傾向は、今後の整形外科医の採用、仕事の満足度、燃え尽き症候群(バーンアウト)、そして患者の医療アクセスに重大な影響を及ぼす可能性があります 。
外来手術(ASC)への移行と外科医報酬のジレンマ
続いて、近年米国で急増している「外来(日帰り)人工関節置換術」と、それに対するメディケア(米国の高齢者向け公的医療保険)の支払い推移を調査した論文です。
参考論文②: Trends in Payments for Ambulatory Surgery Center Facility Fees and Surgeon Professional Fees for Hip and Knee Arthroplasty (Forlenza et al., 2025)
米国では医療費削減のため、人工股関節全置換術(THA)や人工膝関節全置換術(TKA)を、病院の入院治療から外来手術センター(ASC)での日帰り手術へ移行する動きが加速しています。
ASCは医療システムに大きなコスト削減をもたらし、質の高い医療を提供していることが示されています 。
しかし、実際に手術を行う外科医への「技術料(Professional Fees)」はどのように変化しているのでしょうか。
主な調査結果(2018年〜2024年)
- 外科医の技術料は年々減少: インフレ調整後のメディケアによる外科医の技術料は、調査期間中に有意に減少しました 。
- THA(人工股関節全置換術): 1,740.73ドルから1,280.52ドルへ下落 。年間変化率は-4.41%です 。
- TKA(人工膝関節全置換術): 1,738.99ドルから1,278.59ドルへ下落 。こちらも年間変化率は-4.41%です 。
- UKA(単顆型人工膝関節置換術): 1,487.44ドルから1,147.50ドルへ下落しました 。
- 施設報酬の下落幅は限定的: 一方で、ASCへの施設報酬(Facility Fees)も減少してはいるものの、技術料ほどの急激な下落ではありませんでした 。
- THAの場合、9,982.66ドルから9,238.05ドルへの下落に留まっています 。
この論文は、ASCの施設報酬と専門技術報酬はともに調査期間中に減少したものの、専門技術報酬の減少は施設報酬の減少をはるかに上回るペースで進んでいると指摘しています 。
整形外科の診療所経営を維持し、患者が質の高い医療にアクセスできるようにするためには、メディケアの支払い構造の緊急な改革が必要だと警告しています 。
まとめ:対岸の火事ではない米国の実態
いかがでしたでしょうか。米国では、物価上昇や医療費削減の圧力のしわ寄せが、「外科医の技術料削減」という形でダイレクトに現れています。
手術の難易度や、外来手術を安全に行うための周術期管理の労力は増大しているにもかかわらず、実質的な対価が下がり続けている現状は、米国の整形外科医のモチベーション低下やバーンアウトの大きな要因となってるようです 。
日本の医療保険制度は米国とは大きく異なりますが、「医療費の適正化」と「医師の労働環境・モチベーションの維持」のバランスをどう取るかという課題は万国共通です。
この米国の現状は、決して対岸の火事として片付けられるものではないと感じます。
今後も「股関節抄読会」では、臨床の最新知見だけでなく、今回のような医療経済や働き方に関する興味深い論文もシェアしていきます。


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